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チェックメイト

  力ずくでカミーユの腕の中に抱き寄せられた。細い体躯は見た目よりもしっかりしている。キスされる前に振りほどかなくては、いつものようになし崩し的にカミーユの思惑にはまってしまう。

「ジタバタすんな」

 耳元の息は熱い。逃れようとする私を抱きとめておくためにカミーユの腕にも力が入って、ひどく苦しい。そのまま容赦のない力で壁に私を押さえつけて、カミーユは薄く笑った。私の抵抗を楽しんでいるかのようだ。

 カミーユの顔が近づいてきたので、顔をそむけた。クッとカミーユの口から笑いがもれたと思ったら、顎をつかまれて向き合わされる。頬の形が変わるほどひどく強い力で握られて、痛みで涙が浮かぶ。

 どんなに抵抗したって、力では敵わない。

「もう、終わりかよ」

 抵抗しなくなった私に挑発的に言葉を投げかけるが、その口調はひどく満足気だ。

 ゆっくりと重ねられたくちびるはすぐに離れた。はぁと小さく息を吐くと、涙がこぼれた。きつく握られていた顎は離され、その手の親指の腹で涙をふかれた。そのままいつくしむようにぬれた親指で頬を撫でられた。しばらくそうして頬の感触を楽しんでいた親指は私のくちびるへと移ってくる。ゆっくりと、自分の涙の味がするカミーユの親指でくちびるをなぞられる。たったそれだけのことなのに、体の奥が熱くなる。じんわりと奥から熱くなった体は力が入らない。そうなってしまったら、後はもうカミーユに委ねることしかできない。

 私の体をカミーユに預けたのがわかったのだろう。壁に押しつけられていた腕を放すとなでるように私の腰に手を回す。カミーユはもう一度、軽くくちびるを重ねて、すぐに離した。鼻先をつけたまま、カミーユは私の名前を呼んだ。その声はいつも甘く心の奥までやわらかく響く。


 
 求められるがままにくちびるを重ねる。カミーユのキスはいつだって、ひどく優しい。乱暴に押さえつけたくせに、挑発的な言葉を投げかけるくせに、そのくちびるはいつだって、優しくあたたかい。息が苦しくなるほど無遠慮に長々とむさぼることもない。言葉よりも態度よりも雄弁に優しく愛を語る。

「カミーユ、好き」

 私の理性を甘く麻痺させて、いつだって、私にばかりカミーユを求めさせるのだ。







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20110920 ブログより改稿