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黄昏ロマンス

 ふと、視界が暗くなった。まだ日が落ちる時間ではない。何より夕日を目の前にして川べりにローランと並んで座っているのだ。日が陰ったわけじゃない。ローランが私の顔を覗き込んだからだ。

 その表情にドキリとする。やわらかく笑みをたたえているように見えるのに、心の奥まで射抜かれてしまいそうな強い瞳をしているから。その瞳に見つめられていたいはずなのに、逃れたい思いにもかられる。息を止めてうつむいた。

 ローランは私の左肩に回した腕をゆっくりと自分の方へと引き寄せる。すっぽりとローランの腕の中に入り込んでしまった形になった時には、額に小さくリップ音がした。キスをされたのだわかって、ますます顔があげられなくなる。ローランーがふっと小さく息を吐いた。

「顔、見せて」

 優しい声音に心臓が悲鳴をあげそうなくらいキュッとなった。ローランが望むことなら何だってしたいし、何だってできると思えるほど好きだ。にも関わらずただ顔をあげることができない。はたして、私の気持ちをローランは理解してくれるだろうか。好きという気持ちがあふれすぎてその顔すら見れないなんて。



 少し困ったローランの声に顔をあげなくてはと思う。小さく深呼吸を繰り返す。少しずつ落ち着いてきたのを自分で感じて、あと少し待ってもらえれば顔をあげられると、そう思った矢先。

「ダメだな、ボクは」
「えっ」

 思いもかけないローランの言葉にハッと顔をあげた。と、同時にくちびるにやわらかな感触を得た。

「我慢がたりない」

 その言葉の意味を理解するより早く、またローランのくちびるが重なった。いつのまにか体はさらに引き寄せられ、肩にまわされていた手は首の後ろから頭にかけてそえられている。ローランのキスは息ができないほど深く激しくなっていく。頭では何も考えられなくなっていくのに、心は満たされる。苦しいほどのキスなのにローランへの愛おしさは増していく。

 「ん、ロー」

 ほんのわずかな隙で息をつぐ。けれど名前すら呼ばせてくれる間もなく、すぐにくちびるを重ね合わせる。ローランにこれほどまでに求められるなんて考えたことはなかった。いつだって、余裕のあるローランに温かく包まれて優しく大事にされているばかりだったから。我慢がたりないなんて、我慢なんてしなくていいのに。どんな時でも王子様でいる必要なんてないのに。そう伝えたい。ローランの気持ちをこのキスでたっぷり受け取ったら、私の気持ちを伝えたい。今はローランの気持ち応えるためにギュッとローランの背中にまわした手に力をこめた。







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20110921 ブログより改稿