top

うそつくのに慣れないで オマケ

 ドッタンバッタンガッシャンドッシーン!

 こんのくそったれひよこどもめ! お前ら人の結婚までぶち壊した上に、こんなことまでできへんのんかぁぁぁぁ!

 大きな音が基地に響く。それに続いてひよこを罵声する嶋本のかすれた声が聞こえた。

 それを耳にして黒岩は見えもしないのに声の方に視線をむけた。

「大丈夫ですよ」

 嶋本の結婚云々の言葉に少し表情を曇らせた黒岩に高嶺は淹れたコーヒーを手渡す。

「まだしばらくお付き合いを楽しみたいらしいですから」
「何だ、そりゃ」
「幸せってことなのでは?」

 高嶺の言葉に黒岩は顔をしかめた。けれどその表情には先ほどの憂いはなく安堵が見えた。

「ま、結婚は人生の墓場だからな」

 妻帯者の黒岩は携帯を取り出して、待ちうけの自身の妻と子供の笑顔を見た。その言葉とは裏腹な表情に独身の高嶺は

「奥深いですね」

 と、ただ一言つぶやいて、が持ってきたというお土産の包みをびりびりと破った。

 今頃嶋本の彼女は空の人だろう。高嶺はのことを直に知っているわけではない。二人の付き合いがどんなものかも知らないし、昨日何があったかももちろん知らない。そして、知ろうとも思わない。けれどコンパで羽目をはずしすぎるのは力ずくでも止めるべきかもしれないなと、が持ってきた自分の好物を手にして、薄く笑いながら嶋本が知れば慄くようなことを考えた。



200505??→20080621改


あとがき


ここまでおつきあいくださいまして、ありがとうございました!
このお話は大人の遠距離恋愛を意識してみました。
相手の都合と自分の都合を考えて、甘えたりわがままを言ったり簡単にできなくなって、好きだという気持ちだけでは突っ走れない、そんなあきらめることを覚えてしまった「大人」を書きたいなぁと思ったんです。
拙い文章ではありますが、そういう大人の苦さみたいなものの中にゆるがない愛情を感じてもらえていたら嬉しいです。
よろしければぜひご感想おきかせください。
読んでくださったみなさまに、感謝をこめて。
  20080621 みづゑ