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キラリ

「何か欲しいものあるか?」

 クリスマスの話になってシマくんはこんくらいやったら買ったれるかなぁ、なんて指を差し出した。

 あぁ、いつのまにこんなにムードもへったくれもなくなっちゃったんだろう。

 買って欲しいものなんて特にない。というか、私だって働いているし、それなりに欲しいものは自分へのご褒美と称してはちょこちょこと買っちゃってるし。

 恋人からもらうとしたら…指輪とか?

 うん、でも指輪は自分からはねだりたくない。 デートしている時にちらっと指輪を見たら買うたろか、なんて軽く言われてから(ま、それは安物だったけど)シマくんにとって指輪を贈るという行為の意味があんまりないみたいだからなおさらだ。

「シマくんは?欲しいものある?」

 シマくんに買って欲しいものが浮かばなくて逆に問いかける。 と、シマくんもうーんとうなった。

「物欲ないよね」

 簡素なシマくんの部屋はいかに物に執着しないかよくわかる。 服だって気にかけないし、散髪だって床屋で千円とかだし。 賭け事も付き合い程度みたいだし、野球見るからって球場まで見に行く時間なんてないし、せいぜい釣り道具と野球道具。けれどそれもあまりこだわりもないようだし…

「ええ肉食いたいなぁ」
「…プレゼントに?」
「牛一頭とかどうや」
「却下」
「豚でも…」
「まじめに考えてよ〜。物欲が食欲に直結してるだけじゃない」

 そういえばシマくんは飲み食いにだけは惜しまずにお金出すよね。後輩を引き連れては一晩にン万も出していたりする。

「えらい言われようや…」
「ほんとのことだもん」
「…そうでもないで?」

 シマくんはにんまりと笑って私を引きずり寄せた。

「もう、やめてよ!それしたらストッキングが破れるっていつも言ってるでしょ!」

 築ン十年という官舎の畳はシマくんが入居した時に新しく替えられたはずなのに、所々ささくれだっていてる。   座っている私を引き寄せるのが好きなシマくんのおかげでいったい何枚ストッキングをダメにしたことか…
(ジーンズとかはいたら色気ないって言うしさ)(ついでに摩擦で熱痛いんだけど…)

「ほんならストッキング一年分プレゼントするわ」
「…なんかイヤ」

 引き寄せて自分の膝の間に私を座らせると、内腿に手をやってゆるくゆるくなでる。首筋に顔をうずめて、何がええかなぁなんてつぶやくと、その吐息がくすぐったい。

 私の体を好き勝手に触るシマくんの手を追いかけるようにして自分の手を絡めると、きゅっと握り返される。

「何もいらんねんけどな、おまえおったら…」

 あぁ、もう。 デリカシーもロマンもかけらもないような人だから、こうしたストレートな言葉はほんとうに心にとろけていく。

 振り向いてシマくんの首に両腕をまわと、ん?と片眉があがる。

「私もシマくんがいたらいい」

 ゆっくりシマくんのくちびるに自分のくちびるを近づけると、腰をなぞっていたシマくんの手に力がこもった。この腕に抱かれることが何よりも幸せだってことを私は誰よりも知っているのだから。



 翌朝、私の指にはキラキラと控えめに光るものがあった。
…ほんと反則。

 でも。

「ねぇ、何で親指なの…」

 隣で伸びをするシマくんをちらりと見る。シマくんは、んー、なんてとぼけた顔したままだ。

 まぁね、シマくんが私の指輪のサイズを知っているわけないのは承知だ。でもこんなに太いと思われていることが心外なわけで…ちょっぴり文句も言いたくなるってものだ。

「オレの小指で買うてみた」
「…そんなアバウトな買い方しないでよ」

 寝転んだまま手を上に伸ばして、親指でゆるゆるとしている指輪を恨めしい気持ちで見ていると、シマくんの手が伸びてきた。ひょいと、その指輪を私の指から抜いて自分の小指にはめる。

「ほら、ぴったり」

 にかっと笑うシマくんに脱力して、挙げていた手をシマくんに向かって落とした。シマくんはグエッと大げさに呻いたけれど、手に当たった感触からはしっかり腹筋に力を入れていたみたいだから、全然効いてないはずだ。

 あーぁ、と大きくため息をついて、布団にもぐりこんだ。

 まぁ、でも。シマくんがくれたのだ。物より思い出。チェーンを買ってきて、ネックレスにすれば…。

「ほな、買いに行こうか」

 うん、そう。チェーン。せめてプラチナの…、って?あれ、私、口に出してた?

 布団に丸まっている私を、シマくんは布団ごと抱きしめた。

「もっと、ええのん。ちゃんと…したやつ。一緒に買いに行こか」
「え、そ、それって!」

 布団から出てシマくんの顔を見ようとしたけれど、ガッチリと布団ごと押さえ込まれてしまっていて、抜け出せない。

「ちょ、ちょっと、出してよ」
「アホ! 今はあかんわ!!」
「何で…!」

 プロポーズの瞬間に顔を見ていないなんて、ありえないじゃないの! っていうか、シマくんは顔を見られたくないのだろう。きっと、照れてる。それがわかるからこそ見たいのに!

 じたばたともがく私に、シマくんはせせら笑ったまま、布団ごと抱きしめ続けた。



200611→20081125改

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