ダルマスカの王女、アーシェの戴冠式が行われた。
盛大な戴冠式には各隣国からも要人が招かれ、ついにダルマスカの正式な独立を知らしめることとなった。
この日、ラーサーもバッシュを伴ってアルケイディアから出席、式後のパーティで懐かしい面々と顔を合わせることができた。
式後の比較的カジュアルな立食パーティとはいえ、一介の市民でしかないヴァンは落ち着きなく物珍しそうにまわりを見渡していた。本来、ただの市民が参加できるパーティではない。アーシェの特別な計らいによって、ヴァンとパンネロは招かれたのだ。
「アーシェってほんとに王女になったんだなぁ」
「王女になったのではなくて、女王になったんですよ」
ヴァンの間違いに軽く訂正をいれ、ラーサーはヴァンの隣のパンネロに肩をすくめてみせた。
「ほんとにアーシェ、キレイ…」
自分とは全く違う世界のアーシェの姿に羨望のまなざしをパンネロは向けて、肩をすくめたラーサーに同じように小さく肩をすくめてみせた。
「パンネロさんだって…」
キレイですよ、と。
言いかけてやめたのはロザリア帝国を治めるマルガラス家の一員、アルシドがやって来て恭しくパンネロの手をとったからだ。
「さしずめ貴女は空賊のプリンセスってところかな?」
聞いている方が恥ずかしくなるようなセリフをさらりと言ってのけてアルシドはその手にキスをした。
「…!あ、アルシドさんってほんとキザですよね…」
その手をアルシドから解放されるとパンネロは照れくさそうに笑う。その仕草は年下のラーサーから見てもかわいらしいものに映った。
そんなパンネロの様子を見て、ラーサーはヴァンの様子も伺う。
ヴァンは全く気にした様子もなく、バッシュを相手にいつもの調子で好き勝手しゃべっている。
この人はほんとに…ただのバカなんでしょうか…
ヴァンを見るたび脱力感を感じるのは決して自分だけではないはずだとラーサーはため息をついた。
「いよぉ、ラーサー」
「お久しぶりです」
アルシドがいつものように頭をなでるのかと幾分か身構えたラーサーだったが、アルシドは手を少し掲げただけだった。
頭をなでられるたびに「子供だ」と言われているようで気に入らなかったが、あれから1年、少しは対等だと認めてくれるようになったということなんだろうか。
「紹介しようかな」
アルシドは自分の後ろにいた少女を差し出すように前に押しやった。
ラーサーと同年代だろうか。
少女はラーサーを見ると足首だけを軽く交差させて膝を屈めた。
それはロザリア特有の女性の礼だった。
「私の姪で、年は…ラーサーの一つ下になるかな」
「・マルガラスです」
「ラーサー・ファリナス・ソリドールです」
右手を左胸に添えて礼をすると、アルシドが満足気に笑った。
ラーサーはその笑いで彼女を自分に紹介した理由を察した。
「へぇ〜、かわいいじゃん、あんなおっさんに似なくてよかったな、!」
「ちょっと、ヴァン!馴れ馴れしすぎるわよ、お姫さまなんだよ!」
空気を全く読まないヴァンにパンネロが慌ててフォローするけれど、当のヴァンは反省する様子は全くなかった。
「気にしないでください」
慌てるパンネロにはにっこりと笑う。
「え、でも…」
「ほら、いいっつってんじゃん!俺はヴァン、コイツはパンネロ、俺たち空賊なんだ!」
「空賊…?」
ヴァンはを相手に自分の武勇伝を得意気に語りだした。
はその話を楽しそうに聞いている。
いい意味でお嬢様育ちなんだろうとラーサーは思った。
「ま、うちのかわいい姫なんでね、よろしく頼みますよ」
ラーサーの肩を抱いてアルシドは含むように笑った。
(060503)
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