「どう思いますか?」
宿泊のために用意されていたダルマスカの宮殿の一室でラーサーは傍らに控えていたバッシュに問いかけた。
「いずれはある話だろうとは思ってはいましたが…」
「そうですよね…」
1年たった今でもまだアルケイディアとロザリアは不安定だった。ラーサーやアルシドが個人でどれほど意思の疎通や信頼関係を築いてきていても、それがすべて一般市民に伝わっているわけではない。
バッシュのおかげでジャッジの統率はとれているが、だからといってアルケイディアの全ての人間が弱冠12才で皇帝の座についたラーサーを認め受け入れているとは限らなかった。
またロザリアもこれを機にアルケイディアを攻めてしまおうという武装強硬派も存在していた。
それもアルシドの力で抑えはしているものの、くすぶったものはなかなか消えるものではなかった。
そんな中で国と国との結びつきを強くするために政略結婚は一番簡単な手段だといえる。
ラーサー自身がまだ13才ということもあって、すぐに、とはならないだろうが、婚約という形で早々に結びつきを公に知らしめることはできる。
けれどラーサーにしてみればできればそんなことに頼りたくなかった。
「…とても個人的な意見ですが」
「何ですか?」
「ラーサー様には政略結婚ではなく、ほんとうに愛する人と結ばれていただきたいと願っています」
ラスラとアーシェの結婚を目の当たりにしたバッシュだからこそ、政略結婚を受け入れるべきだと言うと思っていたラーサーは驚いた。
「ラスラ殿下とアーシェ殿下を見てきた貴方がそう言うのですか?」
「…だから、こそです。きっかけは政治的なものでしたが、あのお二人はとても愛し合われていましたから…」
政略結婚において、愛情が伴うことなどどれほどの奇跡だろうか。
その奇跡をバッシュは知っているのだ。
自分の目の前で二度はないだろうと考えているのかもしれない。
ラーサーも好きな人と結ばれたいと思う。
けれど、願う相手とはきっと結ばれることはないだろう。
身分や立場の違いはもちろんあるけれど、何より彼女は自分のことをそんな風に見ていないことをラーサー自身が痛感している。
「私には…好きな人はいませんから、嬢を好きになれるように努力してみるのもいいかもしれません」
「性急に答えを出す必要はないのでは…アルシド殿の思惑もまだはっきりしませんし」
バッシュの声音に憂いが帯びているのにラーサーは気付いて、わざと話題を変えた。
「貴方はもう40も近いのにいつまで独身のおつもりなんですか?」
「そ、それは…」
あまりのバッシュのうろたえようにラーサーは笑いをこらえきれなくなった。
「ラーサー様!」
「すみません…貴方のそういうところおもしろくて…好きですよ」
「…さぁ、もうお休みください。明日は会談なんですからね」
「えぇ、わかってます。おやすみなさい」
追い立てられようにベッドに寝かされて、ラーサーは笑いをこらえてしぶしぶ目を閉じた。
まぶたが暗くなって部屋の明かりが消えたことを知る。
明日はアーシェとアルシドと三人で会談の予定だ。
これからの三ヶ国の未来について話し合う。
何もかもが上手くいけばいいのに…
考えるたいことはたくさんあるのに、睡魔は簡単にラーサーを夢の中へと連れて行った。
ラーサーは夢の中で、パンネロと踊っていた。
けれど、何か変だなぁと思う。
あぁ、目線が下向きなんだ。
夢だからかな、パンネロさんを見下ろすなんて。いつかこんな日がくるんだろうか。
ねぇ、パンネロさん。
夢の中でラーサーはパンネロに語りかける。
と、顔をあげたのは、今日会ったばかりの少女、ロザリアのだった。
は何も言わずにただただ笑顔だった。
(060503)
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