ヴァンとパンネロの飛空挺に乗せてもらったせいか、はご機嫌で帰路についた。
機嫌がいい、というよりも浮かれているといってもいいくらいだ。
今なら平気かねぇ…
タイミングを計って、計って、結局はどのタイミングが一番いいかもわからなくなるほどアルシドはに話すことを躊躇っていた。
何が理由かはわからないが、はラーサーとの結婚を嫌がったのは事実なのだ。
さて、どうしたものか…
アーシェの戴冠式後のパーティでラーサーと会う前にの視線はすでにラーサーにあった。
これは思い通りとばかりにそそくさと二人を引き合わせたにも関わらず…一体どこでずれたのか。
例えラーサーがをすぐに気に入らなくても、さえラーサーを気に入ればいいとアルシドは考えていた。
を知ればラーサーがを気に入るようになるという自信が、身内としての贔屓目を差し引いてみてもあったからだ。
計算が狂った思わぬ事態にアルシドも困り果ててしまう。
「ちゃあん?」
猫なで声で名前を呼ぶと、それはそれは嫌そうな顔をアルシドにむけた。
「そんな顔しないで」
「嫌な予感がするもの」
だてに生まれてからの付き合いじゃないねぇ。
「い〜い話なんだけど?」
「…絶対違うわ。叔父さまがそんな声を出す時はろくなことを考えていない時だもの」
「いーや、そりゃあ、もう飛び上がらんばかりのいい話なんだけどねぇ」
ゴマをすったって、その場をごまかすように話したって、結局結果は変わらない。
アルシドはサングラスを外して頭の上に乗せた。の姿を自分の瞳にきちんと映す。
そのアルシドの態度にも話をきちんと聞かなくてはと思ったのか、おおげさに作っていた嫌な顔をするのをやめた。
「ラーサーと結婚してもらうことになった」
それまでの猫なで声がウソのように真剣な眼差しでアルシドはを見た。
一瞬目を見開いたは表情を曇らせるとただわかりましたと小さく頷いた。
あんなにきっぱりと嫌だと言ったとは思えないほどの従順ぶりにかえってアルシドは胸を痛めた。
は自分の役目を理解している。
それが幼気でいたたまれない。
その幼気さはラーサーにも感じるものだった。
だから、ラーサーを放っておけないのか。
だから、の相手にと思ったのか。
そんな子供たちを使わなくては国を守れないなんて、アルシド自身情けなくてたまらない。
ラーサーは自分が子供だから無力だと思っているけれど、いくつ年を重ねたところで無力な自分への歯がゆさはなくならない。
アルシド自身、自分の力のなさを痛感している。
アルシドはそっとを抱きしめた。
「叔父さま?」
小さな。
生まれてきた時から自分の子供のように愛しんで見守ってきた。
「大丈夫よ?ラーサー様は叔父さまが見込んだ人でしょ?」
小さな腕を目一杯に伸ばしてアルシドの背に回すと、まるであやすようにぽんぽんと叩いては笑う。
アルシドはに気付かれない程度に自嘲気味のため息を小さくもらした。
12の少女の方が潔い。
本当の愛も恋もその幸せもせつなさも知らないからこその潔さ。
それがアルシドの胸をしめつけた。
囚われていく思考を振り切るようにアルシドはいつもの調子で頭を大きく振った。
「いゃあ、ラーサーがこんなおてんば乗りこなせるのかなぁと思ったら憐れでねぇ」
「…失礼ね!」
はアルシドの胸元から毛をぶちっと毟り取ると踵を返した。
「痛いんですがね…それされるのは」
いたずら顔のに胸元をさすりながらアルシドはやれやれと大きくため息をついた。
まぁ、ラーサーには毟る毛もないでしょうから、よしとしましょうかねぇ…
アルシドのどうでもいいような心配をもよそには大丈夫よともう一度アルシドに笑いかけた。
(060610)
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