上機嫌だな。
いきつけの酒場で珍しく杯を重ねている相棒を横目にバルフレアは薄く笑った。
アルケイディアのラーサーとロザリアのの婚約が内々に決まったらしいと情報屋から仕入れた途端にフランの様子が変わったのだった。
とはいえ、その変化はバルフレアだからこそわかるほどの些細なものだったが。
「琥珀の谷のロマンの成れの果て…か」
先日バッシュと酌み交わした際にバルフレアはそう口にした。
その実、何が宝で何がロマンなのか全く知らなかった。
しかも「成れの果て」だ。
全く価値のないものになっている可能性の方が高い。
けれどフランは出会った時から琥珀の谷の宝に固執していた。
いや、正確には「成れの果て」に。
「…もうすぐわかるわ」
どうやらフランはどんな経緯がある宝なのか知っているようだったけれど、話すつもりは毛頭ないらしい。
自分と組むようになってから、フランの時間にしてみればそう長くはない。
バルフレアも知らないフランの過去はたくさんある。けれどそんなことを詮索するほど野暮じゃないつもりだ。
もっともそんなかっこつけをフランにつけ込まれている感じも否めない。
「まだまだ青二才ってことか」
「あなたが?」
よく言うわね、とフランの目が笑う。
目的の宝の詳細もわからないものを狙う空賊なんてよほどの物好きだとバルフレアは自分を自嘲する。
お宝が何かはお楽しみってか。
ハードルが高ければ高いほど高揚感に酔いしれるのは自分にうぬぼれているからだろうか?
うぬぼていたってかまわない。
最終的に手するのは主人公だからな。
バルフレアがグイッと空けた杯にフランは間髪いれずに注ぎ足す。
「大丈夫よ。きっと貴方好みの物語だと思うわ」
宥めるような、おだてるような、フランのその言葉にロマンに酔うのも悪くないとバルフレアは思った。
(060703)
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