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うそつくのに慣れないで 1



 今年のひよこ隊は過去最悪だなぁ、なんて評価が定着してきて嶋本自身も頭が痛い。

 なんか順番間違ごうとるやろか。

 ばさりと今までの訓練結果を机に放り出すように置いた。初めての教官じゃないのにここまで手こずるとは予想をはるかに上回る。自分の経験値が上がっている分、今までのひよこたちよりも効率よく訓練をしているはずだ。

 もう少し見なあかんか。

 それぞれの短所も長所もひよこたちで殺し合っている。短所を補い合い、長所を伸ばし合い、お互いがお互いに命を預けられるようになるまでにまだ時間がかかりそうだった。

「シマ、時間じゃない」
「あ、あぁ、ほんまや」

 高嶺に促されて時計を見れば、そろそろ出ないと約束の時間に間に合わない。もともと約束の時間までの時間つぶしも兼ねて居残っていたのだ。遅れてしまっては本末転倒だ。がしがしと頭をかいて席を立った。

「ずいぶんと久しぶりなんでしょ」
「おぅ」
「とっとと結婚しちまぇばいいのによぉ」

 5管区在任中に付き合い始めた嶋本の彼女が連休を利用して久しぶりに上京してくる予定になっていた。嶋本自身うっかりしていたが、どうにもこうにも会うのは3ヵ月ぶりらしい。ここで約束の時間に遅れたら目も当てられない。

 ぱぱっとロッカーで着替えて訓練計画表と結果表などのひよこ隊の資料を放り込んだデイバッグをひょいと背にする。

「お先っす!!」
「お疲れ」
「腰が使いもんにならねぇくれー、かわいがってやれよ」

 がははと笑って冷やかす黒岩の言葉を背中で聞きながら嶋本は基地を後にした。

 駅のホームで羽田行きの電車を待つ間に携帯をチェックをすると嶋本の彼女、からメールが入っていた。

「予定より早い便に乗れたからもう家に着いちゃった。羽田にお迎えしなくていいよ」

 おい。残業したオレは何やったんや…。

 慌てて下りのホームへと向かいながら文句の一つも言ってやろうかと電話をかけようとしたところに電車がやってきたので、そのまま携帯をポケットにしまって乗り込んだ。

 窓にうっすらと映った自分の顔がにやけていることに気づいて、嶋本は顔を引き締めた。女なんてどこにでもいて、どうにでもなるとずっと思っていたのに、やはりでなくてはダメなのだ。離れている時間が増えれば増えるほどに、想いは募るというのは本当らしい。

 ゆったりと動くモノレールにじれた思いで嶋本は窓に愛しいの顔を思い浮かべた。



200505??→20080603改

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