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うそつくのに慣れないで 2



 ドアノブに手をかけると鍵がかかっていなかった扉は抵抗なく開いた。玄関には小さな靴が一足、自分のスニーカーの隣に置いてあった。

 凶器はいてきよった。

 小さな靴は7〜8cmの高さはあろうかというピンヒールで、何度か踏まれたことのある嶋本は顔をしかめた。踏まれた理由は男として棚にあげておく。

「おい、おらんのか」

 靴があるのにあまりに静かな部屋に嶋本は問いかける。 ドスドスと嶋本が部屋に上がりこむと西日が差し込む部屋でベッドにもたれかかってうたた寝しているをみつけた。

 の周りには畳みかけの洗濯物が散らばっていて、溜めていた洗濯物をしてくれていたことを嶋本は悟った。まぁ嶋本にしてみればが来るのがわかってからアテにして溜めていたのだが。

 部屋に入ってきたときとは比べ物にならないくらい音を極力たてないようにデイバッグを下ろし、の横に座った。

 痩せたんちゃうか。

 器用に首だけベッドに横たえて眠るの顔を覗きこむのに、嶋本自身も同じように首だけベッドの上で横にした。

 すぐ目の前の愛しい人の顔をただ眺めて ― とっとと結婚しちまぇばいいのによぉ― という黒岩の言葉を思い出した。

「結婚なぁ」

 特救隊に配属が決まった時に一緒にくるかと聞いて以来、その手の話は二人の間で出たことはない。

 そのときにはに仕事を理由に断られて、多少なりとも恨めしい気持ちにもなったが、遠距離を続けていくうちにやりがいのある仕事がにあることに感謝した。自分ばかりが仕事に打ち込んで、そのせいでを蔑ろにしてしまう後ろめたさが避けられたからだ。

 嶋本の人差し指がの顔のラインをゆっくりとなぞる。耳の後ろに滑り込ませると、は小さく首をすくめた。その様子をあまりにかわいく感じて何度も耳の後ろから首筋に指を滑らせた。

「ん」

 少し覚醒してきたを見て嶋本はゆるくなぞっていた指を止めて鼻をぐいっとつまんだ。

「何寝てんねん」
「・・・ん〜!!ひゃめて」

 苦しくてじたばたするの鼻から指を離して額をぴしゃりと叩いた。  そしてさっきまで自分を満たしていた甘い気持ちを振り切るように嶋本は毒づいた。

「人んち来てぐーすか寝よって」
「ごめん、せやけど鼻つままんといて。誰かさんと違って息止めるん仕事ちゃうねんから」
「何や人を息止めるん仕事みたいに言いやがって」

 少し口をとがらせたに振り切ろうとしていた甘いものを呼び起こされて、窒息させたんぞ、と小さくつぶやいて嶋本はのくちびるをふさいだ。

 コンパなんかでゲームのノリで他の女とキスしたりすることもあるけれど、やっぱりこのくちびるにかなうものはないと嶋本は思う。 誰よりも何よりもでなければ自分自身が何においても全く満たされないのだから始末におえない。

 久しぶりのの、そのすべての感触を満足いくまで味わうべく、嶋本の手はの体をなぞりだした。



200505??→20080603改

 

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