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カノープス

ぶわっと身体の中が宙に浮くみたいだとは思った。
独特の浮遊感は小型の飛空挺ならではのものなのだろう。

飛空挺に乗るはこれが二度目になる。
一度目は今回ダルマスカに来るために。
二度目はロザリアに帰る時になるかと思っていただったが、思わぬ誘いが舞い込んだのだった。

アルシドが会談にむかい、暇をもてあましていたをヴァンが見つけ、自分の飛空挺に乗せてやるよ!と半ば強引に連れて行ったのだった。

パンネロは最初、勝手にそんなこと…と青ざめていたけれど、結局彼女もヴァンの強引なところに弱いのだろうか、最終的にはしょうがない人だからとに笑うだけだった。

イヴァリースの空は広かった。

ロザリアで大切に育てられたことに文句はない。

けれど見たことのないものを見られることもまたには魅力的だった。

「アルケイディアまでどのくらいかかるの?」
「これならあっというまだぜ!」

ロザリアからダルマスカの風景は来る時に見ることができたので、その先を見てみたいとは思った。

「アルケイディアに行ってみたいの?」
「行ったことないの。ロザリアから出たのも初めてだから」
「よし!じゃあ、アルケイディアまで行くか!」

そうして、はアルケイディアを空から眺めることができた。

ロザリアとは全く違う景色。景色だけではなく空気も違う。肌が外気に触れなくともはそう感じた。

アルケイディアを見たからってラーサーの心がわかるわけでもないのに、何を期待したのか、は自分でもわからなかった。
ただわかったのは、自分とラーサーが育った世界が如何に違うかということ。
かえってラーサーを遠くに感じることになってしまう結果に終わった。

眼下に広がるアルケイディアを見つめたままヴァンとパンネロに問いかける。

「…ラーサー様はどんな方ですか?」

二人は顔を見合わせた。
ヴァンはうーんと鼻の頭をかく。

「うーんと、いいヤツだよ!あの年でさ、あんなことして。でもって俺たちにも今までどおりだし」

くったくなくヴァンは笑う。

パンネロはそうだね、とヴァンの言葉に頷いた。

「でも…ちょっと淋しい人かもしれないかな…」
「淋しい?」
「うん、だってさ、あの年で家族はもういないんだよ?そりゃあ私たちだって孤児だけど…少し事情が違うじゃない?お兄さん…だったひとを…あ…」

公にはヴェインは戦死したとだけ伝えられている。それに気付いてパンネロは思わず口を覆った。

「大丈夫です。アルシド叔父様から聞いていますから」

事の顛末は全てアルシドからは聞かされていた。それもやはりをいずれはラーサーのもとへと考えていたためだろう。

「…やっぱりね、どんなに間違ったことをしている人でも自分の家族とそういうふうになってしまったことは、ものすごく大きな傷だと思うの」
「大丈夫だって!バッシュだってついてるし、いざとなれば俺たちだっていつでもラーサーの味方するさ」

そうだね、と笑うパンネロはどこか浮かない表情をしていた。

「気になることでもあるんですか?」
「…バッシュ小父様にはアーシェのもとに帰って欲しいってラーサー様に手紙で書いてしまったの。今から思えば…ひどいよね」

先の戦争ではいろんな人がいろんな傷を負って、いろんなものを失った。
誰がどのくらい、なんて比べるものでも比べられるものでもない。

「しょうがないって。みんないろんなもの失くして辛い思いしたんだもんな。バッシュだって兄弟と戦ったし…」

ヴァンは誰も悪くなんてないんだ、と自分にも言い聞かせるように何度も呟いた。

過去を断ち切ることは容易いことではないけれど、それでも前を向いていきたい。それはきっと残された者たちの共通する想いでもあるのだろう。

様。ラーサー様の力になってあげてね。私では立場が違いすぎるから」

パンネロはの手をとって懇願するように力をこめた。その手の温かさにせつなさがこみ上げる。
この温かさにきっと、ラーサーは惹かれているのだとは感じた。






(060603)