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うそつくのに慣れないで 7



 慣れない町も早朝の人気がない時間だと気負わずに歩けた。 当てもなく歩いたはずなのに、辿り着いたのは海が見渡せる公園で、は苦笑した。 嶋本から離れようとして一番嶋本を感じる場所にきているのだ。 それも無意識に。

 朝靄で海と空の境界線はゆるくとけあっていて、油断したら気持ちごと持っていかれそうだった。

 心にかかった靄は嶋本を求めれば求めるほどに濃くなった。

 遠距離になってしまったことを後悔はしているわけではない。

 ただ、一人に慣れてしまっていく自分が怖い。寂しくなんてないと強がりを続けてそれに慣れてしまった自分が怖い。

 地元の二人での思い出の場所はどんどんと様変わりをして、新しくなったその場所は自分一人のものになり嶋本の影を消していく。

 自分がもう嶋本のことを好きではないのかもしれない、ただ惰性と情だけなんじゃないかと心のどこかで思っていることにも気づきたくなかった。嶋本だって、ただ身近に新しい出会いがないから続けているだけなんじゃないかとは思うことすらもあった。

 会って求め合えば、何ら前と変わらないのに、心が満たされた瞬間に怖くなった。

 もうこれ以上、失いたくないと。もう一人でなんていたくないと。

 遠く海と空を見て、は自分がずっと嶋本に助けを求めていたことに気づいた。レスキュー隊員の嶋本はSOSがあれば誰であろうと自分の危険をかえりみずに助けにいくだろう。しかし、愛して、そばにいて、離さないで、と寂しさでいっぱいになって溺れているにその手を差し伸べることはなかった。

「要救助者はここにいますよ〜」

 ふふふっとは自嘲気味に笑う。突然その耳にこのアホっと荒い息遣いが聞こえた。その瞬間、軽く頭に衝撃を受けた。叩かれたのだ。もちろんそれが誰だかすぐにわかった。振り返って嶋本に文句を言おうとしたけれど、それよりも先に後ろから慣れ親しんだ腕が回されていた。

「…要救助者確保」

 は驚いた。突然嶋本が現れたことよりも、体力馬鹿じゃないかといつも思っていた、その嶋本の息があがっていることに驚いたのだ。自分を探すために走り回ったことがわからないほど馬鹿じゃない。そんな嶋本には胸がいっぱいになった。今まで抱えていた不安が堰を切ったように涙になって零れ落ちていく。嶋本はの頭をぐしゃぐしゃと乱暴になでた。

「こんなとこで何してんねん。方向音痴のくせして…」

 ギュッとに回された腕に力が入る。は涙を拭くこともせずその腕に頬を寄せる。

「頼むから、何も言わんといなくなるな」
「…ごめん」
「…おまえやないと、あかんのや」

 嶋本の言葉はゆれていた。もしかしたら嶋本も泣いているのじゃないだろうかとは思った。けれど、それを確かめることはぜすにただ嶋本の腕にすがりついた。

 寂しいなんて口にしてはいけないと思っていた。そんな言葉で嶋本を困らせたくないと思っていたからだ。けれど、寂しいときには寂しいと素直に口にしてもいいのかもしれないとは嶋本の温もりに目を閉じた。そして、嶋本が寂しいときにも寂しいと正直に口にして欲しいと思った。



200505??→20080617改

 

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